NGO SESCO 論考 NO.39号 「アファ-マティブ・アクション」を考える

 米連邦最高裁は去る6月末、大学の入学選考で黒人やヒスパニック系を一律に優遇する「アファ-マティブ・アクション」(マイノリティ優遇措置、肯定的差別)は違憲とする判決を下した。最高裁という司法の巨大権力における勢力の攻勢が当面は不変と目される中、いかにそれに対抗する措置を取りうるか。大学は新たな課題をせおわされた。主要な大学や大学関係団体は失望や批判を表す声明を一斉に出した。やむをえず判決に従う姿勢を示しつつも、入学者の多様性を重視する方針を堅持する姿勢が示された。福留東土 東大教授は、「米国には多様な人種・民族が存在するが、ヨーロッパ系白人、アフリカ系、ラテン系、アジア系、先住民族に区分して議論されることが多い。人種間の社会経済的格差と差別の問題は積年の課題である。今回の訴訟を巡る議論のプロセスは長く複雑なものだったが事態が深刻だとおもわされるのは、議論を通して異なる見解を融和させる道を探るのではなく、保守とリベラルの対立と分断が固定化されていることだ。判決に至る動きはまた、入学者選抜が米国社会の人種問題に関わる中心的論点の一つであることを改めて示した。」「米国の大学はキャンパスが包摂的であることを重視してきた。社会の人口構成に近似した学生集団をつくり出すことが公正であり、学生が混じり合い、異なる経験と見解をぶつけ合って学び合うことに価値が置かれている。」


 この裁判での被告となったのは、全米最古のハーバード大学と公立のノースカロライナ大学である。前者は志願倍率37倍、後者は10倍といわれる狭き門である。法廷意見は、保守派6人が賛成し、進歩の判事3人は反対したが、特定の人種を優遇することは法の下の平等を規定した憲法に違反するとの原則を述べる。


 「アメリカの世論には、全ての人に等しい機会を与えて人種差別をなくすためにアファーマティブ・アクションが必要だという考え方と、入学者選抜で全ての人を等しく扱うべきだという考え方の両方が存在する。」それは、「多様性のあるチームは同質なチームより高い成果を上げられる。」「多様性の高いグループのほうがイノベーション能力に富んでいて、新しい製品のアイデアを多く生み出せたという研究もある。」反対派の主張は、「ある人種をほかの人種より優遇することは、機会の平等を保障し、全ての個人を人種に関係なく保護するという憲法の規定に反するというのだ。」「この問題には、難しいジレンマが付いている。アファーマティブ・アクションを否定すれば、社会に根を張る人種差別が放置される。一方、採用すれば全ての人を平等に扱うことを求める憲法の下で、差別を解消するために差別を行う結果を招く。人種差別の歴史を持つアメリカ社会では、機会の平等と結果の平等の理念は、時に正面からぶつかり合うのだ。」また、卒業生や大口寄付者の子弟を優遇する『レガシー入試』も判決を機に正統性が揺らいでいる。島田洋一 福井県立大学名誉教授は、「人種に基づく優遇措置は、人種の定義がますます流動化する現代社会において、様々な不公正や逆差別の温床にならざるを得ない。今回の最高裁判決は妥当なものと言えよう」と。公平性と社会的公正をともに重視する米国の大学入試は『一点刻み』の日本の入試を問い直す手がかりにもなる。また、例えば東京医科歯科大学の入学者、女性比率を何割にするかについても言える事である。入試における公平と公正の両立は今後も重い課題であり続けるであろう。

<引用・参考文献>
GLENN CARLI 「差別解消のための差別は許されるか」NEWSWEEK 2023.7・18/25
島田洋一 「米国の最高最高裁判決は『差別的』か」産経新聞 2023.7.14
福留東土 「米国で人種考慮『違憲』の衝撃」 日本経済新聞 2023.7.18

ハーバード大学俯瞰 ウイキペディアから
ジョージワシントン大学 2017.3
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2023.8.10
NGO SESCO 副理事長 深尾幸市

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