NGO SESCO 論考 NO.44号 回顧 2023年 文学 ― 芥川賞 泉鏡花文学賞 野間文芸賞 ―

 2023年にどのような作品が話題になったか。主な文学賞を眺めてみた。読んだものは一部でしかないがここではその中から3冊を取り上げる。

168回芥川賞 井戸川射子「この世の喜び」 佐藤厚志「荒地の家族」
168回直木賞 小川哲「地図と挙」千早茜「しろがねの葉」
吉川英治文学賞 桐野夏生「燕は戻ってこない」
吉川英治文学新人賞 蝉谷めぐ実「おんなの女房」
本屋大賞 凪良ゆう「汝、星のごとく」
三島由紀夫賞 朝比奈秋「植物少女」
泉鏡花文学賞 朝比奈秋「あなたの燃える左手で」
山本周五郎賞 永井紗耶子「木挽町のあだ討ち」
川端康成文学賞 滝口悠生「反対方向行き」
169回芥川賞 市川沙央「ハンチバック」
169回直木賞 垣根涼介「極楽征夷大将軍」永井紗耶子「木挽町のあだ討ち」
谷崎潤一郎賞 津村記久子「水車小屋のネネ」
中央公論文芸賞 川越宗一「パション」佐藤賢一「チャンバラ」
柴田錬三郎賞 池井戸潤「ハヤブサ消防団」
野間文芸賞 川上弘美、「恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ」
野間文芸新人賞 朝比奈秋「あなたの燃える左手で」九段理江「しをかくうま」

168回 芥川賞 井戸川射子「この世の喜び」
 先ず自分に二人称で呼びかける手法に戸惑いを覚えるが、平野啓一郎は「V.ウルフ風の『意識の流れ』を二人称で描くという難しい挑戦が成功している」と。小説のあらすじを簡単に言うとショッピングセンター内のスパーにある喪服売り場に勤める、大学生と社会人の二人の娘をもつ主人公が、フードコートの15歳の少女との淡い交流を描く。また、同僚、メダルゲームに熱中する老人、気の良い店員などが登場する。記憶はいつのまにか「あなた」だけのものでなくなっている。「あなた」が「あなた」に話すために思い出したという最後の情景は、現在を生きるしかないすべての「あなた」に向けたささやかな光の希望になりえている。「四、五十代年配の女性の、心の動きと地味な空間の内外での生活。大きな事件は何も起こらず、したがって何事も解決されず、解決がないのでカタルシスもない。それなのに、読書の快楽を満喫することが出来る。」と川上弘美は選評している。
余談ながら我が母校関西学院大学出身者の受賞は嬉しいものだ。


泉鏡花文学賞/野間文芸新人賞 朝比奈秋「あなたの燃える左手で」
 あらすじはハンガリーの病院で働く日本人のアサトが、その病院で左手に悪性の腫瘍があると診断された。故に、手の切断手術を受けることになる。病室で麻酔から覚めると、見知らぬ白人の肉体労働者の左手が接合されていた。ICUから無事に一般病棟に移り、ウクライナの戦地に赴くジャーナリストである妻・ハンナとも電話で話せるほどに回復する。リハビリをも順調に進んだかに見えたが、ある時、その左手が燃え上がるように真っ赤に膨れ上がり、拒絶反応を起こす。「手とは何か」上腕、前腕、両掌、指、指腹、指毛、爪の描写は薄気味悪さと畏怖を覚える。ハンナのクリミア脱出国境超えの場面は身につまされる。舞台もハンガリー 日本 ウクライナ ロシア ドイツ ポーランドと広域に渡り、 本書は今まさに進行形、読まれるべき物語だ。


野間文芸賞 川上弘美、「恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ」
 年齢を重ねるごとに身体は劣化して行くが思考はしなやかになる。物語の語り手は作家の「わたし」・朝見でオーバードクターとして留学した父親に伴い、幼い頃に過ごしたカリフォルニアで出会った三姉妹の長女・アンと商社マンの息子のカズ。時を経て東京で再会した2人と、来し方やただいまのあれこれを、時折飲みながら語り合うのが朝見にとっては暮らしの楽しみになっている。本著の筋書きはこの3人の関係性と物語のなかで語られるさまざまな恋愛のあり方である。それらは3人の記憶に絡まり、時には悲しく時には切なく、軽やかなユーモラスもある。最終に出てくる「生まれてそして死ぬという時間の間に、いったいわたしたちはどのくらいたくさんのことを感じ、考え、忘れてゆくのだろう」と。年を経たことが楽しくなるような小説と言えそうだ。

<鎮魂2023>
 昨年も多くの作家がこの世を去った。大江健三郎88歳、畑正憲87歳、平岩弓枝91歳、野見山暁治102歳、森村誠一90歳、伊集院静73歳、山田太一89歳、永井路子97歳、辻村寿三郎89歳、富岡多恵子87歳、三木卓88歳、豊田有恒85歳、西木正明83歳。加賀乙彦93歳、目黒孝二76歳、吉岡平62歳。海外の作家ではチェコスロバキア出身のミラン・クランデ94歳が記憶に残る。

先月の出来事の一つ
 12月28日。Philippine Missionary Institute学長Pastor OSORIOさんと家族3人が来日された。コロナ禍前7年連続で訪問、押しかけ授業をして来たが4年振りに大阪市内のホテルで旧交を温め楽しい夕べを過ごした。今年の新学期秋に訪問することを約束した。

芥川賞 井戸川射子
朝比奈秋 2024.1.10
野間文芸賞 川上弘美
OSORIOさん家族と 2023.12.28

2024.1.10
NGO SESCO 副理事長 深尾幸市

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