NGO SESCO 論考 NO.45号 「人口減少時代の経済成長」 ―日本経済新聞・「やさしい経済学」からー
愛読している日本経済新聞の経済教室欄に「やさしい経済学」が60年(1961.1.6 ~)以上も続く本欄がある。セスコ 論考NO.29号(2022年10月)に「人口減少社会と移民政策」を取り上げたが、今回は京都大学教授 佐々木啓明氏の10回(2023.11.17 ~ 11.30)の連載「人口減少が経済成長に与える影響について」に依拠して紹介しつつ若干の感想を述べたい。2023年2月現在の日本の人口は約1億2460万人で2008年に約1億2800万人となった後は減少が続いている。人口問題はインド、ナイジェリアの急増と中国、韓国などの減少が世界的な問題となっている。
一人ひとりの豊かさを測る
「国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の人口は53年に1億人を割って9924万人となり、65年には1954年の水準にほぼ等しい8800万人にまで減少する。」「国全体としての相対的な豊かさと、国民一人ひとりの豊かさは異なり、経済厚生は実質GDPではなく、一人当たり実質GDPで測ることが重要だ。」日本の人口は8,000万人規模でも良い。
幸福度を示す「経済厚生」
「人口減少で国全体のGDPが減少すると、国民生活に負の影響が及ぶことも考えられる。その一例が国防だ。税収減により緊縮予算が必要となれば、国防予算も減りかねない。しかし、人口が減っても日本の領土が縮小するわけではなく、国防に必要な支出は変わらない。」
「経済厚生とは人々の幸福度のこと。人口減少は必ずしも経済厚生を低下させるとは限らない。」共有する。
外生的な技術進歩の重要性
「人口減少率が大きいとき、実質GDPは減少し、その国の貯蓄も減少するので、全体の資本ストックは減少する。しかし、全体の資本ストック減少率を労働人口が上回るため、資本深化が永続し、1人当たり実質GDPは増大する。」成長率は外生的技術進歩率に等しくなる。
「資本深化」が導く成長
「米国の経済学者チャールズ・ジョーンズによれば長期における1人当たり実質国内総生産成長率は『人口成長率』に比例するという。」米経済学者P.ローマ―教授説も要参照。
開放経済が生む貿易利益
「人口減少下でも開放経済であれば経済厚生の持続的上昇が期待できる。」「開放経済では閉鎖経済より両国の成長率が高くなる『動学的貿易利益』が生まれる。」
資源枯渇がもたらす影響
「持続的資本深化で、1人当たり実質GDP成長率は正となる。」「資源の枯渇化と人口減少が同時に生じても、条件次第では、経済厚生の持続的上昇は得られる。」まさに条件次第。
ロボット活用に必要な貯蓄率
「人口減少経済では、労働力の減少をロボットが補うことで生産量を保てる。」「ウイーン経済経営大学のC.プレトナー教授が、資本、労働、ロボットという3種類の要素を投入して生産する経済をモデル化し、人口成長率は正と仮定して長期分析をした。このモデルで人口成長率が負である場合を分析する。」「このモデルで持続的経済成長が生ずるには、資本とロボットという2種類の生産要素を同時に蓄積する必要があり、その達成には高い貯蓄率が必要になる。」要は貯蓄率引き上げが重要で、上がれば成長できるケースに移行する。
医療・介護産業の重要性
「日本の総人口に占める65歳以上人口の割合は、1950年には5%程度が、2019年には28.4%に達している。今後も上昇は続き、65年には38.4%と、国民の約2.6人に1人が65歳以上となる社会が到来すると予測される。」「在宅医療が推進されれば、看病・介護を常時必要とする家族を世話するために、労働力世代は働くことが出来なくなり、仕事を辞めざるを得なくなる。」「医療費・介護費は、その財源が税金や保険料で賄われていることから、単純に増やせばよいというものでない。しかし、医療・介護サービスもひとつの産業だ。GDPの構成要素である。」冒頭にも触れたが人口減少と高齢化率の増大は重要な課題である。
農業に必要な当事者の視点
「人口減少における農業政策に必要なのは、担い手不足で農業生産が減少し、国内消費に対する国内自給率が低下するという消費者からの見方見方だけではない。農地所有者や農業者ら、当事者側に立った見方が求められる。」日本の食料自給率も忘れてはならない。
「豊かさ」の新たな視点
「地球は約50億年後には消滅すると言われる。それよりも早い段階で人類は滅亡するかも知れない。人類の滅亡まで豊かさを享受し、生存し続けることを人類の持続的発展と考えるならば、GDPにこだわり過ぎないことも大切だ。人類の生存という世界規模の視点と一人ひとりの生活水準を重視する視点の双方が不可欠だ。どのような社会規範を持ち、その規範をどのように進化させて、今後の経済社会を創造するか、ということが問われている。」賛意。
参加した新春交流会
「新春トップセミナー」:1月22日(土)に大阪商工会議所で開催された「[2024年春開業]未来医療国際拠点Nakanoshima Qrossを迎えて」を聴講してきた。基調講演が(一財)未来医療推進機構 理事長 澤芳樹氏から「この拠点に人が集まって英知を結集し、さらに新しい医療発展に貢献してゆく、世界的な医療・ヘルスケア産業の集積拠点を目指す」と。次いでパネルディスカッションは、吉村洋文大阪府知事、横山英幸大阪市長、松井一郎前大阪市長、澤芳樹氏、コーディネーターは更家悠介サラヤ社長で進められ2025年大阪・関西万博へ繋がれ、例えばiPS細胞関連の展示など日進月歩の医療の姿を示すと。
参加者330人、内容豊富なセミナーであった。なお、万博といえば賛否両論あり現今では盛り上がりに欠けているように見える。が、私はリスクがあっても人類進歩発展のために積極的に取り組む派にいたいと思う。奮励努力。
「ユニセフ新春交流会2024」:1月27日(土)に中央電気倶楽部大ホールで開催された。大阪ユニセフ協会(2001年8月設立)とは、大学院に入学した2005年「アフリカの子ども」を研究対象としたことから2006年の春頃から大阪ユニセフ協会事務所を訪ねるようになった。また、大阪青山大学での講義「ボランティア論」の中で2010年から1 ~ 2回 / 年 学生を引率して事務所へ行き、講義・実習をする学修依頼も行った。これを契機に毎年の新年会へ招待を受けて参加している。今年のプログラムは出田善藏(大阪ユニセフ協会会長)の挨拶で始まり、「大阪ユニセフ協会活動のあゆみ2023」とユニセフ事務局長キャサリン・ラッセル氏の声明文より「子どもたちの緊急事態」のスライドショー。ユニセフ学習「世界がもし100人の村だったら」の感想文(関西創価小学校児童)、「ハンドinハンド募金」活動(大阪暁光高等学校生徒)、懇親会、手洗いダンス(参加者全員)と続き、宮島登美子事務局長の閉会の辞にて終了した。毎年の事ながら小・中・高の生徒たちの発表から純真な発露に心が揺さぶられる。前途有望。
2024.2.10
NGO SESCO 副理事長 深尾幸市