NGO SESCO 論考 NO.49号 「令和Z世代はなぜ働かないのか」
巷で「Z世代」が話題になることが多くなってきた。気になっていたところ『文藝春秋』2024年5月号で小説家の麻布競馬場と作家佐藤優が「若者のことが分からない 昭和世代に読んでもらいたい」と標記対談が掲載された。佐藤氏が「『生活保守主義』や『若者エリートの二極化』を実感を持って自分事として考える上で、麻布さんの作品は“最良のテクスト”だと思います。『新島塾』の次年度のプログラムで教科書に指定しました。」とあり、教科書ならば一度読んで見たいと取り上げてみた。
対談冒頭佐藤氏は「麻布競馬場とは何者か。2021年にTwitter(現X)に投稿した連作短編小説『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』が、『タワマン文学』として現代日本文学に新しい頁を刻みました。ただ、覆面で活動されているから、著者の『麻布競馬場』なる人物が果たして実在するのか、実は今日まで半信半疑でした。」
「『令和元年の人生ゲーム』は、Z世代(1990年代末から2010年代初期に生まれた人々の通称)の生態に迫った小説だ。主人公は“意識の高い”若者たちにのなかにいて、ひとり『何もしない』22歳の青年・沼田。<クビにならない最低限の仕事をして、毎日定時で上がって、そうですね、皇居ランでもしたいと思っています>。そう語るかれは、“何もしない”姿勢で、独特な存在感を放っている。」
「『頑張ること』『働くこと』の“暴力性”を暴くのが、沼田なのかもしれません。頑張ったところで、持たざる者は報われない。あるいは、富を得ることは、誰かを傷つけてしまうことに繋がる―だから、彼は必要最低限しか働かない。」全文の構成は、「意識高い系」男子学生が企業経験を持つサークルの代表者に抱くあこがれと、幻滅や絶望を描く「平成28年」で始まり、人材系最大手企業でバリバリ働く若い女性の孤独が舞台の「平成31年」、学生向けシェアハウスの人間模様をつづる「令和4年」、老舗銭湯リニューアルを考える、ボランティアめぐる「令和5年」と続いている。
本著はカタカナ語に加えて新語の頻出に若干戸惑いつつも興味深い。ランダムに拾ってみた。ビジコンサークル ソーシャルグッド系ベンチャー インカレ グルテンフリー オワコン ワナビー アタックリスト エデュテック オンラインサロン インスタ メンヘラ メルカリ コミュニティースペース マルシェ ワークショップ ショッピングモール インフルエンサー事務所 セキュリティゲート シェアハウス ブログ DX ディレクター プロデューサー クリエーター エンジニア フリーランス DXイベント ラッパー ヤンキー サーフィン ダイビング オフイスカジュアル パンプス コンバースのスニーカー サマーニツト スウェットパンツ ジャケパンスタイル オウンドメディア クロスポ バリキャリ ラウンジ ジェルネイル フローリング ウォーターサーバー ワインスクール アールグレイ クラフトビール ハートランド オリオンビール クラッシクバーガー カルパッチョ グリッツシーニ カルボナーラ スコーン プチモンブラン エントリーシート クラウドファンディング NPO AO入試 親ガチャ ワクワクバイト メガベンチャー ナチョス セイーチェ コーポレートカラー ファシリテイ アジャイル的 プロマネ チャリテイ モビリテイ コンビニ LINE Web媒体 スマホ ネットサーフィン アーカイブ ポテンシャル ソリュウション・・・
次に『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』を読む。目次は、「3年4組のみんなへ 30まで独身だったら結婚しょ 2802号室 青山のアクアバッツァ 真面目な真也くんの話 森から飛び出たウサギ 僕の才能 ウユニ塩湖で人生変わった(笑) 高円寺の若者たち 大阪へ 大阪から お母さん誕生日おめでとう Wakatteをクローズします 吾輩はココちゃんである うつくしい家 希望 この部屋から東京タワーは永遠に見えない カッパを見たことがあるんです 東京クソ街図鑑 すべてをお話しします」とあり、作家橘玲が「地方から東京に出てきて挫折した、アラサーの男女のこじれた心象風景を描く。面白かった。」とコメントしているが情けない話の連続は今風やはり面白い。
例えば「今年で30歳になります。去年、清澄白河のマンションを買いました。最初は白金高輪あたりで探していましたが、中高の同級生や会社同期も含め既婚の友達が増えてきて、もう六本木や恵比寿で遊ぶことも減りましたから。川辺の静かな低層マンション、広い部屋、観葉植物に囲まれた暮らし、とても気に入っています。」「日曜日。白金高輪で買った長い名前の観葉植物の葉の上にはレース越しの優しい陽光。美しい朝。取り残された私と私の人生。それでも続いてゆく日常とローンの支払い。戻れない過去への執着を流山おおたかの森に置いて、私は清澄白河のこの家のベランダで一人、淹れたての熱くて苦いコーヒーを飲む。」いい会社に入って、頑張って働いて、セクハラにもパワハラにも耐えて生きる若者もいれば、それを眺めている者もいる。多様性を重視するZ世代だからこそ孤独に、懸命に自分が定めたゴールに向かって走っている人たちに拍手を送りたい。
2024.6.10
NGO SESCO 副理事長 深尾幸市