NGO SESCO 論考 NO. 29 号 人口減少社会と移民政策

―日本経済新聞・「やさしい経済学」からー

 かねて人口問題と移民については様々な議論がなされてきた。近年先進国の人口減少社会とアフリカなどの人口急増が大きな課題として取り上げられてきた。
 日本経済新聞の経済教室欄に「やさしい経済学」が60年(1961.1.6 ~)間も続く本欄がある。セスコ 論考NO.26「教育は人的資本の投資」でも取り上げたが、今回は国士館大学教授 鈴木江理子氏の「人口減少社会と移民政策」10回(2022.5.2 ~ 5.13)の連載に依拠して紹介しつつ若干の感想を述べたい。

国連報告書が示したシナリオ

「まだ日本では『移民』という言葉が耳慣れなかった2000年、移民に言及する2つの報告書が公表された。『21世紀日本の構想』(小渕恵三首相の私的諮問機関)と『補充移民―移民は人口減少を救えるか』(国連人口部)である。」「5つのシナリオを満たす移民数を推計すると日本の人口が最大と予測される05年の人口規模を維持するには00年から50年までに毎年34万人(シナリオ3)、1995年の生産年齢人口を維持するには毎年65万人(シナリオ4)の移民を受け入れる必要がある。」この「国連報告」を日本でも強く受け止められたが人口政策として移民受け入れ議論には至らなかった。

増える外国人と減る日本人

「日本の総人口は11年以降減少が進む。07年から自然減に転じ、減少幅も年々拡大し、21年には60.9万人減を記録した。」「日本人の出生数が減少する一方で、日本生まれの外国人数は増加傾向にあり、20年における総出生数の2.2%を占めている。」島根県以外は外国人の増加が人口の減少幅を補っている。(都道府県別の人口動態・20年1月)外国人は日本人に比べて生産年齢人口比率が高く、老年人口比率は低いのが特徴。高齢化や労働力不足に悩む地域にとつて重要な存在となる。

労働力不足と外国人労働者

「日本経済の活力を維持するための高度人材と、労働力が不足する分野の労働者。」「高度人材に関して在留資格『高度専門職』を創設するなど、政策的に受け入れが促進されている。」
「現在では専門的、技術的分野に該当するとは評価されていない分野における外国人労働者の受け入れについて着実に検討していくとした。」教授、研究など多様な受け入れが必須。

「単純労働」を支え続けた外国人

「雇用されているニューカマー外国人で、08年の48.6万人から16年には100万人を超えた。新型コロナウイルスの感染拡大で増加率は鈍化したが21年には172.7万人と過去最高を記録している。」「食料品製造業の9.4人に1人が、繊維工業と飲食店ではそれぞれ13.3人と14.3人に1人が外国人である。」業種偏在にも目を向けた対策が必要である。

技能実習生急増の背景と課題

技能実習生の特徴として「7割以上が30歳未満という若い労働者である。」「以前は中国人が最も多かったが、近年はベトナム人が急増し、半数以上を占めている。」「大学で学ぶ外国人の増加に伴って、留学生のアルバイトも増え、就職先としては、飲食業や小売業などのサービス産業が中心。」「学業終了後に日本で就職する者も増加傾向にあり、留学生は、将来の外国人労働者予備軍と捉えることができる。」留学生対応は長期の観点から。

「特定技能」創設の思惑

「2018年12月、深刻な労働力不足を解消するため、入管法が改定され、新たな在留資格『特定技能』が創設された。」「技術実習に1号から3号があるのと同様に特定技能も技術水準によって1号と2号に分けられ、現時点では1号は飲食料品製造業や農業など14分野、2号はそのうち建設業と造船・船舶工業の2分野である。」良質の外国人留学生受け入れを推進したい。

「還流型」受け入れの限界

「雇用主や日本人従業員が高齢化するなかで、技能や知識など継承できなければ、将来的な産業の衰退につながりかねない。」「還流型受け入れは、外国人の継続的な新規入国を必要とするが、韓国やシンガポール、台湾など周辺諸国は、日本以上に少子化が深刻で労働力獲得競争の激化が予想される。還流型受け入れによる労働力供給は、持続可能ではない。」日本の対応は大丈夫か。

移民を避ける政策の問題点

「賛否はあるにせよ、単なる労働力不足ではなく、人口減少と向き合い、移民受け入れの是非を討議するきっかけが期待された。」「子どもを産み育てたいという希望をかなえる社会基盤の整備に異論はない。しかし、希望出生率超えるTFRは、実現不可能な仮定である。50年後に1億人程度の安定した人口構造を保持することを目指すのであれば、移民に関する議論は避けられない。」外国人の受け入れは、欧米の現況・トラブルを見る限り、長期視点で取り組まないと禍根を残すであろう。

実態に追いついていない政策

「そして何より単なる支援の対象としてではなく、権利の主体として移民・外国人を捉えるべきだ。解消されない就職差別や入居差別、不安定雇用や低賃金労働、低い高校進学率や高い中退率など、社会経済的格差の是正が急務である。」複数課題を複眼着実に。

受け入れに不可欠な統合政策

「移民を否定した還流型受け入れ拡大は、人権の視点からも、日本社会にとっても、好ましくない。都合の良い『労働力』ではなく、『人間』として受け入れる制度を整備することは、『選ばれる国』を標榜する政府や経済界の意向にも沿う。」要は『人間』の受け入れなのだ。

付記1 在留資格一覧
在留には29項目ある。外交 公用 教授 芸術 宗教 報道 高度専門職(1号、2号) 経営・管理 法律・会計業務 医療 研究 教育 技術・人文知識・国際業務 企業内転勤 介護 興行 技能 特定技能(1号、2号)技能実習(1号、2号、3号)文化活動 短期滞在 留学 研修 家族滞在 特定活動 永住者 日本人の配偶者等 永住者の配偶者等 定住者 / 出典:『2022年度 出入国在留管理』。 2022年9月26日(月)コスモスクエアにある「大阪出入国在留管理局」を訪ねた。2階申請受付は多くのアジア系の若い男女に加えアラブ・アフリカ人も混じり、緊張した雰囲気の中で真剣に書類を書き提出をしている様子であった。館内の撮影は禁止されている。毎日多数の外国人が生存をかけて通過する場面。業務が順調に進展することを希求する。
付記2 鈴木江理子編著『入管問題とは何か』(明石書店)がある。名古屋入管で収容中に亡くなったスリランカ人女性、ウイシュマ・サンダマリさんの事件で、一般にも「入管問題」が知られてきた。本書はその本質「暴力性」について書かれた好著である。差別を、「暴力性」を、制度の中に持つ以上、日本人は本当の意味で「人権」を熟知していないと思われる。「入管問題」とは、この事実と向き合うことであろう。

写真日経記事 2022.9.
鈴木江理子 国士舘大学教授 HPより 2022.10
大阪出入国在留管理局前 筆者 2022.9

 

.2022.10.10
NGO SESCO 副理事長 深尾幸市

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