NGO SESCO 論考 NO. 26 号 教育は人的資本の投資

―日本経済新聞・「やさしい経済学」からー

 教育問題はどの時代にあっても最重要課題で厳格な規律を伴う教育か、ゆとり教育が良いとか常に揺れ動いている。1960年代後半からの高度成長期の日本の教育は進んでいると世界各国から注目されたこともあり、フランスの教育省が視察に来日した事例もあった。


 日本経済新聞の経済教室欄に「やさしい経済学」が60年(1961.1.6 ~)間も続く本欄がある。セスコ 論考NO.18「ノーベル経済学賞」で取り上げたが、引き続いて今回は大阪公立大学准教授 黒田雄太氏の「教育が社会に与える影響」10回(2022.6.15 ~ 6.28)の連載に依拠して紹介しつつ若干の感想を述べたい。

・「正の外部性」がもたらす恩恵
「教育を受けることで知識や能力が『資本』として蓄積され、その資本によって生産性が高まり、収益が得られるため」「これまでの研究で教育には、犯罪の抑制、健康の増進、政治参加の促進など、様々な正の外部効果があるとされた」が、定量的な測定は困難のように思われる。

・犯罪を減らす3つの経路
「教育を受けることで安定した仕事や所得を得ることができ、犯罪の機会費用 が高まり、それによって犯罪を行うインセンティブが低下する」「義務教育課程では長い時間を学校で過ごすため、犯罪行為に費やすような時間が減少する」「学校教育で忍耐力や協調性など非認知能力が高まり、犯罪を行う確率が減少する」。拘束時間が効用をもたらすが「自由」とのバランスも考慮する必要があろう。

・難しい健康改善効果の判定
「教育と健康はどちらも人間社会において重要なテーマですが、未知の部分が多い」。健康改善こそ今後の課題だ。

・国や制度で異なる政治貢献
 ノーベル経済学賞受賞者のミルトン・フリードマンは「安定した民主的社会は、なんらかの共通の価値観が広く受け入れられ、多くの市民が最低限のリテラシーと知識を持たなければ成り立たない。教育はその両方に貢献する」と、教育の外部性と社会的なリターンを論ずる。傾聴に値する。

・環境にやさしい人は育つか
「教育を受けることで、人々は確かに環境保護の重要性を理解し、環境意識の高さを顕示しがちになるが、行動が変化すると証拠が不足している」。実際の行動変化を見極める。

・少子化が問題視される理由
「高等教育を受けた女性は子育ての機会費用が増加し出生率が低下するという、比較的一貫した結果が示される。これは教育の負の外部性だという指摘も存在する」「教育や福祉、人口政策は相互に関係しているため、それぞれを単独で見るのではなく、手段と目的を明確にした包括的な議論が重要だ」。人口減少問題は予見でき、長期の大胆な施策を実行すべきだ。愚案、3人以上の子どもの場合成人する迄税金免除、4人目には1千万円付与するとか。

・世代間の連鎖を断ち切る
「親の学歴や所得が高いと子どもの学歴や所得も高くなることは、一般的に知られている。こうした世代間連鎖が生じる原因は、遺伝的な要因と環境的な要因とある」「公的な教育投資よって世代間の連鎖を断ち切り、社会階層の流動性を高めることは、社会全体に有益な結果をもたらす」。この点にこそ国家、行政が意を尽くさなければならないと強調したい。

・将来世代へ続く好循環
「母親の学歴が子どもに与える影響を分析した米国の研究では、母親が大学に通うことで低体重児を持つ確率や早産になる確率が有意に低下することが示された。大卒以上の母親は喫煙確率が著しく低く、妊婦検診に行く確率が高かったことから高等教育によって身についたこのような習慣が幼児の健康状態を改善させたと考えられる」「家庭環境が子どもの教育に与える影響も重要だ。夫婦間の不和や家庭内暴力は子どもの学力低下やいじめにつながる」「家庭内の問題に福祉が立ち入ることは、家族の自主性やプライバシーの侵害にもなるため、教育投資のような事前の予防策を並行して考えることも重要だ」。納得できる。

・若者の投票率上昇が持つ効果
「研究によって教育の有効性が示されたとしても社会的な合意が得られなければ教育投資はおこなわれない。(中略)教育投資に対する政治的な意思決定は難しい問題だ。高齢者は教育投資の恩恵を直接的に受けにくいため、教育支出を受けるインセンティブが弱いといえる。」「実証研究でも、高齢者の割合と教育支出の相関関係が示唆される。大竹文雄大阪大学特任教授と佐野晋平神戸大学准教授の分析では、高齢者の割合が増加すると子ども1人当たりの義務教育支出が減少していた」「このような問題を解決するために年齢別選挙区の導入や年齢による投票の重みづけの手法が考えられる。若者の投票率の上昇があげられる」。決定的に若者の意識改革が重要である。

・効果的な政策実施のために
「教育の効果は学力や所得以外にも表れるため、教育政策を評価するのは簡単ではない」ではどうするか「効果を検証できるようあらかじめデザインされた政策を実施していくこと」「データーを測定しながら政策を実行し、その効果を科学的に分析して将来の制度設計に活用する。異質性と不確実性が大きい教育政策では、そのプロセスが特に重要だ」。
繰り返へすが国の将来を思う時、教育ほど重要課題はないであろう。国民が財産。

1.機会費用とは、「ある行為を選択することによって失った、他の行為から得られたはずの価値」を意味する。「すでに安定した仕事や十分な所得がある人ほど、犯罪を行う費(コスト)が高く、逆に、失うものが無い人ほど犯罪を行う機会費用が低くなる。」黒田先生にメールで教示を得た。  

                       

ミルトン・フリードマン
大竹文雄 HPより

2022.7.10
SESCO 副理事長 深尾幸市

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