NGO SESCO 論考 NO.17 移民について考えてみよう

NGO SESCO 論考 NO.17 移民について考えてみよう

移民政策

移民・難民の話題になると思い出すのが、ナイジェリア駐在時代に偶々ラゴス港を訪れ見聞した光景だ。1983年1月、政府は突然不法入国外国人、殊にガーナー、トーゴ、ベニン、チャドなど200万人を追放した事件には驚いた。ナイジェリア人の失業対策、治安維持を目的とした。勤務先アレワ紡績には23人の対象者が居り、退職金と餞別を渡して帰国を促した。港湾から出航する「人が鈴なり」の船舶を見た時には、民族大移動(期限内に出国しなければ逮捕される)のスペクタクルを眼前で見る現実に驚天動地の思いであった。

日本の移民史は1868(明治元)年に153人が契約労働者としてハワイに渡っことに始まる。1908(明治41)年4月28日、第1回ブラジル移民船「笠戸丸」が781人の移住者を乗せて神戸港を出港した。石川達三の『蒼茫』(第1回芥川賞受賞)で知られ、昭和5年全国から神戸の国立海外移民収容所に集まった民衆900人が、不安と期待の中で過ごす出航までの8日間を描いた小説である。冒頭は「1930年3月8日。神戸港は雨である。細々とけぶる春雨である。海は灰色に霞み、街も朝から夕暮れどきのように暗い。」孤独と哀愁の人間模様に感動する。石川はその後も移民船内を描いた、国から見捨てられた「棄民」の船内生活「南海航路」などあるが、ここでは本題ではないので話を次に進める。

移民とはだれの事なのか 一応国連の定義「一年以上自国外に住んでいる人」になるが、現実は複雑である。国外にいた期間、何時移民でなくなったか、新しい国の市民になる場合に加えトランスナショナルコミュニティやディアスポラ(国外離散)という新しい特徴を持ったタイプの移民もある。移民の分類として「自発的な」移民と「強制的」移民。政治的な理由で移住する人々と経済的な理由で移住する人々。更に中間的な社会的理由に分類される移住者もいる。また合法移民と不法移民(非正規移民)がいる。

移民でなくなる方法に二つあって、本国への帰還と新しい国の市民になる(帰化する)ことである。市民権と国籍に関する法律は、血統主義と出生地主義の異なる原則がある。

国名市民権に関する原則帰化のための居住期間二重国籍許可の可否
アメリカ出生地主義5年
イギリス血統主義と出生地主義の組み合わせ5年
ドイツ血統主義(2000年まで)8年
フランス血統主義5年
カナダ出生地主義3年
表1 市民権に関するルール

国際移住の未来について

 移民が第二・第三世代に及ぼす影響は、国や集団によって違いモデル化することは出来ない。主な移民の出身国は大量の労働力が余った貧しい国で、とくに中国とフィリピンが多い。次いでバングラデイシュ、インド、インドネシア、パキスタンからの移住が見られる。中国国内では珠江デルタの労働力不足に他の省から、更にサハラ砂漠以南のアフリカ諸国からの移動がある。世界には2億3200万の国際移民がいる。新たな通信・輸送革命と勢いを増す移住ネットワークおよび移住産業が活発になる。移住として1990年代初めドイツは毎年25万人が、アメリカも年間50万人以上となり、日本は三位で20万人の一時的な移民労働者を受け入れている。非正規移民の規制から管理として国際送金や国外からの特殊な投資が問題だ。音楽や料理を初め社会と文化を豊かにする移住にも注目、多くの国から移民が移住して多様性が増している。イギリスの状況を「超多様性・ハイパーダイバーシティ」と表現することもある。多様性が持つプラスとマイナスでは、高度な熟練技能を持つ移民と情報通信技術に依存し、すべての都市で輸送や廃棄物処理、接客、建設、ケータリングなどの地位が低い職種で重要な役割を担っていることが多い。世界中の大都市には、注目すべきコミュニティセンター、教会、モスクが形成されている。一方人身取引と移民の密航問題もあり、国境管理やバイオメトリックス(生体認証)、ビザといった個別の規制処置など課題がある。また国際的な難民制度改革についてはUNHCRの活動、つまり難民保護・支援の制度設計が重要だ。移民の権利を擁護することは移民の政治学における極めて重要なテーマとなる。要は、関係するすべての人々のために、移民のあらゆる側面に対するメリットとデメリットについて、バランスの取れた物の見方と実践が必要なのではないだろうか。

引用・参考文献

カリド・コーサー 著 是川夕 訳 『 移民をどう考えるか 』勁草書房 2021年6月

石川達三 著 『 蒼茫 』 秋田魁新報社 2014年6月 

追記 : 移民・難民に関する興味深い視点の異なる3冊を紹介しておこう。

・ニケシュ・シュクラ著 栢木清吾訳『良い移民 現代イギリスを生きる21人の物語』

創元社 2018年8月 ( 作家、詩人、俳優、ジャーナリストらが、それぞれの生い立ちや家族の歴史をめぐって「移民」と「人種」をテーマに書くアンソロジー。 )

・ジェニー・エルペンベック著 浅井晶子訳 『行く、行った、行ってしまった』 白水社 2021年7月 ( 小説の形で壁のあった街で問う国境とは・・・)

・鳥越皓之著 『琉球国の滅亡とハワイ移民』 吉川弘文館 2013年11月 ( 沖縄ハワイ移民一世が語った差別・労働・戦争など等身大の歴史から・・・)

 2021.10.10

SESCO 副理事長 深尾幸市

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