NGO SESCO 論考 NO. 14 新型コロナウイルス禍・ワクチン開発・少子化問題

新型コロナウイルスの蔓延が世界で続く中、日本に比べて桁違いに多い感染者と死者を出していた欧米諸国でワクチン開発が成功し、接種も迅速に進み、感染抑止に成果を上げている。加えてイギリスを始めウィズコロナの生活に切り替えている。遅れていた日本も自衛隊投入大型接種会場設置や大学キャンパス使用などようやくワクチン確保(一部遅れもあるが)も出来て軌道に乗ってきた。目前東京オリンピックは、1都3県が無観客になる。が、筆者は感染者数で大騒ぎするのは無意味で重症者・死者数が重要と考える。日本では死者数は少ないし、東京都の病床使用率は13%余りに過ぎない中大いに疑問だ。また三密は厳守ながら「酒類提供の制限」にはもう少し工夫があってよいと思う。

コロナ禍後を少し長めに捉えワクチン開発に関する見解と将来の人口問題について触れてみたい。我々は新型コロナウイルスという新たな変異が起こる厄介な感染に、1年半もの長期にわたり継続的にさらされてきた。この間、日本人の心を深く苛んできた不安、抑鬱、恐怖などのストレスは、もはや耐え難いレベルにまで達している。強度のストレス持続は、ストレスに対する人間の抵抗エネルギーをやがて消耗させ、人間の「心身恒常性崩壊危険」な可能性がある。「コロナ鬱」と称される不安障害や強迫神経症の頻発がその表と言えよう。

新型コロナウイルスの拡散によって生じた不安と恐怖は、少子化問題に直結する。結婚・出産適齢期の若年女性の非正規雇用が常態化し、若年男性にも雇い止めや失業が広がっており、コロナ禍における休業、廃業、収入源が不安や抑鬱のストレスを生み、これが若年層の結婚・妊娠の忌避となって現れ、出生率の加速的減少に繋がっている。政府は閣議決定された少子化社会対策大綱において「希望出生率1.8」を掲げる。が、仮に合計特殊出生率が反転してこのレベルに達するにしても、そもそも女性の出生数自体がその間に減少していくのであれば、少子化の波を消すことはできない。

少子化が進んだからといって高齢者が即座に減少する訳でもなく高齢化率は上昇する。コロナは高齢者の重症率が大きく自粛し過ぎて閉じこもり「フレイル」(身体機能や認識機能低下)を招くとも言われる。日本は同調圧力が生まれやすい社会風土でもあり将来課題山積にどのように対応をしたらよいのか。そして我国のワクチン開発に言及すれば政府の消極的対応は致命的で、開発・生産、承認、接種のお粗末さが指摘されている。製薬業界や学界とともに育ててこなかった経緯から新技術の開発基盤に欠けていた。今回の危機を契機に学術界、政府もワクチン研究開発を国家レベルの安全保障戦略として練り直す必要がある。船橋洋一「『ワクチン暗黒国家』日本の不作為」『文芸春秋』、熊谷徹「医療とワクチン、日独の差を生んだもの」『Voice』いずれも2021年7月号の論文に詳しい。

いずれにしてもコロナ禍のこの帰結を心理学と人口学の境界領域から読み解いて政策を説く知者が出てくる事を期待したい。現代のグローバル社会では、米国のGAFAに象徴されるように、若者を中心に生きる意味、生の充実は起業し、国際舞台で活躍することにある。国境を飛び越えて繋がろうとしている。今回の「対コロナ戦争」対応では多くの欧米諸国は、都市封鎖など政府による強力な私権制限を行った。ひとたび国家社会に危機が来た時個人の権利が制限されるのは覚悟せざるを得ないであろう。

日本の市民への良識に頼る「自粛要請」型では限界がある。犠牲者を少なくするのが政治だとすれば、一党独裁国家中国がとった高度技術や医療、経済成長政策は、コロナ禍における優れた国家の証となるだろう。開発独裁型の小国群にとって中国が理想の国家像になる。しかし筆者は自由のない専制国家になることを望まないが、過度の民主自由国家・自由放任主義が理想なのかは問われているように思われる。

2021.7.10
 SESCO 副理事長 深尾幸市

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