NGO SESCO 論考 NO. 2 「ミクロの視点から見たコロナ後の世界」
NGO SESCO 論考 NO. 2
「ミクロの視点から見たコロナ後の世界」
コロナ禍後の世界は、民主自由国家と強権的専制国家との戦いがどうなるのか。目先中国がウイルスの感染の封じ込めに奏功したことで、国際社会の政治構造に変化がもたらされる可能性がある。一方初動対応で封じ込めを成功させたドイツや台湾の国民監視システムの法規制が取れ、それに従う国民性が有るということも知れた。日本はどうか。経済の落ち込みを極小にしながら、新型コロナウイルスの拡大を防ぐという難しい政策が行政府に求められる。病院・医療充実とワクチンの開発も急がれ各国の力量が問われている。
「前近代人は戦争や病死が日常茶飯事だったため、人の死が身近にあった。ところが現代は、医療技術の発達と長続きする平和のおかげで、死への文化的・社会的免疫が落ちている。立ち止まって自制することが出来ない。」と哲学者イバン・イリッチは言う。
仕事の仕方に関してもリモートの進展で極端な成果主義になる。リモートが一般化することでビジネスパーソンに求められるのはアウトプット、つまり結果だけが評価対象となっていく。数値化されない頑張りは明確な成果でないことから、評価の対象から外れる。残業規制が厳しければ、自腹でもう一台パソコンを買いUSBでつなぐなど併用して仕事をする。従い会社から評価を得るためには「無際限無定量に働いて成果を上げる」。そんな働き方が嫌なら、すべてを放り投げて最低限だけの仕事をするか、その二択に近い状況になりかねない。終身雇用はすでに崩壊しているが、どこかで会社と人をつなげていた日本型経営の社員同士、従来の労使関係は、これを機会に消えていくのではないか。
教育に関してはどうか。「対面形式」の授業は価値が上がる。オンラインの授業がいくら充実しても、学生たちは大学に直接行き、教えを請う。誰と学ぶか、いかに学ぶか。付加価値による区別化が進むと、教師のスキル、集まる学生の質、そうした条件によって、教育の格差はコロナ前よりも一層拡大していくと思われる。
「人生の意味は何か」「本当の幸福とは何か」「人間の生死はどのように決まるのか」というような人間の内面に対する関心が深まる。金儲けや出世をこれまで通りの価値観として受け止めて、仕事に邁進する人もいるが、そこから降りて自分なりの価値観を見出し、これまでとは異なる幸せを目指す道もある。生き方の二極化が始まるであろう。
今日のパンデミックの克服を通して、どのような社会を建設するのか問われ、社会の分裂修復と新しい理念の下での国民の再統合が急がれる所以である。
引用文献 佐藤優 『ウイルスと内向き時代―コロナ後の大転換を国家と個人はどう生き残るか』徳間書店 2020.6
2020.7.20
SESCO 副理事長 深尾幸市